[chapter:目醒メノトキ]


 気がつくとそこは寝慣れた自室のベットの上。
夢心地でぼんやりと瞳をあけ、目覚める。
「は・はわっっ!?」
ベッドが軋む程の勢いで、裏返るような声を放ち跳ね起きた。
「私。流星群を見に丘に…
でも、」あれは夢だったの??
起き上がった体制のまま窓の外を見上げた。
まだ夜は長く、星が濃紺の空で輝き、静かだ。月がいつもより眩しく感じる。
夢、だったんだ。

… …本当に?

でも確かに。両手には今も誰かの温もりを感じている。
記憶に残ってる。
真っ直ぐな2つの色の瞳と、優しい暖かい瞳だ。
(綺麗な人達だった。
ヤダ私、都合のいい夢見てたんだ、恥ずかしい……)
気恥ずかしさから少しだけ涙ぐみ頬を染める。
きっと寝る前に、あの絵本を見たせい。そのうち眠たくなって、着替えもしないまま落ちてしまったんだ。
……とても、素敵な夢だった。
だって大好きな絵本と同じ世界に行ったんだもの。
自身の中で納得したのか、安心した様子で布団に潜った。

+ + + +

 道の脇に停車している車が一台ある。
そこにあの二人の青年は寄りかかっていた。なにやら思いつめた面持ちで。
沈黙の中、
「ねーねー、見つけたの?どうしたの?迎えに行くの?
てゆーか俺もう眠たい」
車の中から元気な声をあげるのは淡い紫混じりのピンク髪の少年。
湊は自分の口元に人差し指を立ててなだめるように言う。
「駄目ですよ奈央君。今日はしー…っ、です。
もうちょっと、待ってくださいね。」
優しく微笑みそう言うと、小瓶をその奈央と呼んだ少年に手渡す。
中には宝石の原石にも似た結晶が息をするように、内側から不規則なリズムで輝いていた。
それを受け取ると奈央は弾む声で言った。
「今日のはLibra/リブラだね!」
「はい。騎音のエレメントです。天秤から零れた欠片。今回は無事手に。
だけど…」
湊の視線の先にはプロヴァンス風の可愛らしい家が建っている。その2階。
窓を眺めているのは騎音。
特に表情を変えることはなく、ただ真っ直ぐに。
独り言を呟くように湊は言う。
「心配、…ですよね。僕もです。これじゃあまるで」
「俺たちが巻き込んだ」
言い終える言葉の語尾に被せてぽつりと騎音は言葉を出す。
言った言葉の音に感情は無いが、それはとても悲観的な一言。
一度目を伏せてから、横目で湊に問いかける。
「どうするの、湊。
ほおって置いても影響ないなら、無かったことにしてあげたい、俺。
もうあの時の湊と同じな思い、他の誰にもさせたくないよ。」
言われて一瞬、表情が動く。
それは彼にとって変えられない出来事、つんざく騎音の言葉。
湊はすぐにそれを隠し言葉を返した。
「僕達が触れないでいても、彼女が忘れてしまったとしても、それはたぶん許されない。
星達がいずれあの子の綺麗な物を全て連れ去ってしまう。」
一呼吸おき、言葉を続ける。
「…始まってしまったようです。もう一度。

…片目のステラティカ。」

それは星詠みのチカラ。
[恒星へ導く半印/メタ・ラ・ステラティカ]
二人はそれをよく知っている。
そして、…その末路も。
だけど、求めてる。
それだけは確かだった。
「でも僕達は…」
「うん。わかってる。今はまだ…」
今はまだ、夢の中だと思っていて眠らせてあげよう。

君の名を
もう一度呼び、再び手をとりにゆくまで。






to be continued…
🔚